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教育長あいさつ令和元年9月号

 

教育長あいさつ

    
               
                           

       

「Short-cuts」から「Round-about」へ

 

 時間かけ 焼くサンマほど 乙な味(酔花幻)

 

突然ですが、皆さんに問題です(答えはこのページの一番下)。

  【問1】「親が思わず子供に言ってしまう言葉」の第3位は「ちゃんとしなさい」 第2位は「何度言ったら分かるの」だそうです。
             では第1位は?

  【問2】「4時間」「2時間22分」「1時間」。さて何の時間でしょうか(ヒント:東京からある場所までの移動時間)。

  【問3】「日本人20分、フランス人1時間」これ何の時間? 

 今の世の中、「スピード」がもてはやされる時代。家庭でも学校でも、仕事でも生活でも「早くできること」が尊ばれる社会。民間企業では「いかに素早く成果を上げることができるか」が重要な評価指標の一つだし、「60秒以内で商品を提供できなければ無料券一枚贈呈」といった無謀な取り組みを行ったファストフード店もあります。

 日常生活も同じ。私の青春時代の思い出。淡い想いを抱いていた女の子へ気持ちを伝えるためにラブレターを書く。漢字が間違えていたら恥ずかしいから国語の辞書とにらめっこ。繰り返し書いては消し、書いては消して文章を仕上げる。何時間もかけて便せん一枚を書き上げる。「よし、できた!」。ドキドキの想いでポストに投函。返事が来るまでの「裁きの日々」の中で、自身を褒めたり後悔したり、手紙の内容を反芻したり、それを読んでいる彼女の姿を想像したり…、「自問自答」が繰り返されます。

 勉強も同じ。一昔前までは、「応仁の乱についてまとめよ」という宿題をやるには分厚い百科事典を引っ張り出して調べなければならなかったし、ジョギング中に見つけた道端に咲く花の名前を知りたければ、家に戻ってから植物図鑑を開く必要がありました。サボっていた絵日記の「天気」を調べるには気象庁に問い合わせなければならなかったし、「坊っちゃん」以外の夏目漱石の作品を読みたければ、本屋か図書館に行く以外にはなかったのです。

 しかし今や「時短社会」「Short-cuts(ショートカット)社会」。ラブレターは今やメール等のSNSに代わり、漢字は自動で変換されるし、返事はあっという間。想いを募らせる暇などありません。知らない漢字も花の名前も、一か月前の天気もスマホがあっという間に教えてくれますし、時間をかけて図書館に足を運ばずとも電子書籍で夏目漱石の本を読むことができます。大変便利で効率的、そしてスピーディ。しかし、そのような中で、私たちが失ったものはなかったでしょうか。

 ゆっくり、じっくりした時間軸の中で、「僕って何者?」とか「好きになるってどういうこと?」とかいう「答えのない問い」に向かい合うことができます。「あ、この漢字こう読むんだったんだ!」「そうか、あの木はこんな特徴があったんだ!」といった発見にも出会えます。もしかしたら図書館で偶然出会った本に興味を持って生涯を貫く「信念」を手に入れる人もいるかもしれません。「時間がかかる回り道」が、知識や経験を深めたり広げたり、それらを知恵として高めたりすることができるのです。迷いながら目的地に向かう道すがら、素敵な風景に出会うこともあるかもしれないのです。

 人の成長は薄い紙を一枚一枚積み重ねるような時間がかかる営み。「時短」や「ショートカット」では人は育ちません。人の成長を時間軸で競うことはナンセンスなのです。でも親御さんは「早くしなさい!」と子供の尻を叩くし、就学前の英語塾は大人気。「手間」をショートカットしてファミレス通いの家庭もあれば、中には「愛情」をショートカットして、スマホに子守をさせる親御さんもいるそうです。

 学校は学校で、限られた時間の中で教育を行わねばならないことから、「じっくり」「ゆっくり」課題と向き合って、「なぜかな?」「どうしてかな?」と考えさせたり、試したり、その結果成功したり失敗したりする時と場を与えることが難しくなっています。例えば分数の割り算。ご存知の通り「割る数の分母と分子をひっくり返して掛ける」ことで答えを求められます。しかしその「理由」をどれだけの教室で教えているのでしょう。「時短」「ショートカット」で「法則」を教えるにとどまってしまっている授業も少なくありません。

 そんな「もやもやとした想い」を少しだけ解決できる時がやってきました。市内すべての学校で2学期が始まりまったのです。授業日数は約80日間で三つの学期中一番長い。だから年間で一番腰を落ち着けて学べる時。「なぜかな?」「どうしてかな?」と感じたことを深く調べたり、「もっと深く学んでみたい」「これに挑戦しよう」と思ったことにじっくりと取り組んだりできる時。

 こんな学びを体験させるために、2学期には子供たちが時間をかけて課題を追究できる機会が数多く設定されています。その一つが「学校行事」。各校で運動会や学芸会、学習発表会や合唱コンクールなどの行事が行われますが、いずれも本番までの過程では、子供たちは多くのトラブル、悩み、たくさんの「答えのない課題」と向き合うことになるでしょう。

 「足の遅い人ばかりだけど、我がクラスが全員リレーで勝てる方法はないかな…」「中学最後の合唱コンクールだから優勝したいけど、もっとクラスがまとまるにはどうしたらいいんだろう…」「ごんぎつねの兵十の気持ちをもっと伝えたいけどどうやってセリフを言おうか…」「一人でも多くのお客さんに、情景を思い浮かべてもらえるような照明の工夫はないかな…」…。

 これらはすべて「答えのない課題」。「答えがある課題」はスマホで調べればあっという間に正解を教えてくれるけれど、「答えのない課題」は試行錯誤を繰り返しながら、経験を積んで「自分なりの答え」を見つけていく以外にないのです。ただし試行錯誤には時間が必要。時間がなければ経験を積むことはできないし、時間の制約が強ければ強いほど、物事を深く考えたり追究したりすることが困難になります。

 学校は今確かに忙しい。小学校の英語科の新設や、プログラミング教育の実施等で教育課程(1年間の各校の教育プログラム)もゆとりがありません。そんな中でも2学期は「Short-cutsな学び」ではなく「Round-about(遠回り)な学び」が実現できる時でもあるのです。

 すぐにできることはすぐにできなくなります。すぐに表れる成果はすぐに価値をなくしていきます。じっくりと時間をかけて育んだ「興味・関心」は生涯を貫くものになるのです。受験前の「一夜漬け」の勉強で、点数をとるために「夏目漱石=坊っちゃん」とステレオタイプに覚えることにどれだけ意味があるのでしょうか。「坊っちゃん」を学んだら「三四郎」「吾輩は猫である」を読んでみる、彼の生きた時代を、彼がどう生きたのかを調べてみる、正岡子規が彼に与えた影響を学んでみる…。これぞ「勉強」「学び」ではないのか、と思っています。

 少しずつではありますが、私たち教育委員会は、そんな学びを子供たちに与えてあげられる清瀬を目指していきます。

 

冒頭のクイズの答えです。

  【問1】「早くしなさい」

  【問2】東京~新大阪間の新幹線の所要時間。

   〇4時間:昭和39年開業当時「0系」新幹線

   〇2時間22分:令和元年現在「E4系」新幹線

   〇1時間:令和10年導入予定「L0系(リニア)」新幹線

  【問3】ランチ(昼食)に充てる時間 

教育長 坂田 篤
 
 

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